QUEEN

部屋に着くと、風呂場に直行された。 環は森が嫌いだ。 しかし、今回の事については少しばかり責任を感じていた。 油断していたのは事実で、森一人に資料室に向かわせた事を後悔していた。 森が拉致された事を目撃した生徒が環に伝えにこなかったらと思うと、体が震えた。 「環会長、すみませんでした。」 森が、ぽつりと言う。 環は何故謝られているのか理解できず、怪訝な顔をした。 「だって、嫌…だったでしょう? 会長ただでさえノーマルなのに、嫌いな俺にキスや愛撫なんてして…」 「……」 環は答える事が出来なかった。 ただ無言でシャワーを取り、コックを捻る。 もう片方の手で、器用に石鹸をスポンジに取り泡立てると森の体に押し当てた。 そこで、森が環の手を掴み静止する。 「もう、大丈夫ですから…」 森はこれ以上環に迷惑はかけられないと言わんばかりに自分で体を洗い始めた。 その姿がなんとも痛々しい。 瞬間、環は森を抱きしめていた。 「会長?」 「…すまなかった、今回は俺の不注意だ。」 「…。」 「ちゃんと分かっていたのに…すまなかった。」 落ちたシャワーノズルから流れ落ちる水音だけが虚しく木霊する。 どれくらいの時間がたっただろう…いや、おそらくほんの数秒の沈黙だっただろう。 「俺、会長が好きですよ。」 「!?」 「勿論、そういう対象として。」 人に嫌われたのは初めてだった。 それがすごく新鮮で、けれど事情を知ると、 軽蔑する眼差しと一緒に同情やいろんな視線を向けてくるお人良し。 すごくおかしな話だが、周囲とは違う反応を見せた環に、 森は自分でも気付かないうちに惹かれていたのだ。 気付いたのは先程、キスをされたときだった。 求めてしまった…もっと、もっと欲しいと。 「ね、汚らわしいでしょう? 気持ち悪いでしょう? だから、環会長はもう俺に近寄らないでください…。 恋人のフリも、もう…いいですから。」 森は力なく、口許だけで笑みを造った。 自分で自分が許せない。 だから環にはもう、甘えられない。 森は静かに環の胸を押して、未だ抱き合ったままの体を離そうとした。 が、反対に強い力で抱きしめられた。 「!?…会長っ!?」 「…嫌いだ、お前なんか。死んでも好きにならない。」 その夜、環は森を抱いた。 酷い言葉とは裏腹に、まるで壊れ物を扱うようにその腕は優しかった。 次の日、環が体を張ってくれたお陰で、 環と森のコイビト説は確定され再び羨望の眼差し以外は消えうせた。 以前と変わらぬ日常が戻り、森は平和な日々を手に入れた。 ただ違うのは… 「あぁ…ん、ふぁ」 「ちゃんと、俺をイかせろよ…? じゃなきゃ、明日にでも捨ててやる。 お前の代わりはいくらでもいるんだから。」 毎夜のように繰り返される情事。 相変わらず酷い言葉を環は吐く。 森は聞こえないというようにいっそう綺麗に喘いだ。 けれど…本当は分かってる。 環の変わりこそ、森の周りにはたくさんいるのだ。 今はまだ気付かないままで、 気付かせないままでいてあげる…。 本当に逃げられないのは、 環会長、あなただ…。 今宵も絶え間なく喘ぎ続けるベッドの上で、 環の顔を見上げながら森は、妖艶に微笑んだ…-----。