QUEEN

遊んであげるよ。 ベッドの中で。 さぁ、はじめようか…? 楽しい楽しい”奴隷”ゲームを。 【QUEEN】 ギシリと、スプリングが悲鳴を上げる。 その度に厭らしい水音と嬌声が響く。 絡み合う体。 何度も繰り返されたキスで混ざり合う唾液。 もう何度二人は達しただろうか…。 「…はっ、お前、自分が情けなくならないのかよっ。 同じ男に突っ込まれて嬉しそうに善がりやがって」 マジ、キモイ。 自分の下で今も尚喘いでいる少年に男…澤村 環(サワムラ タマキ)は言った。 その視線は、軽蔑を含み少年…鐘里 森(カネサト シン)を拒絶していた。 まるで汚いゴミでも見るかのようなその視線を浴びながらも森の嬌声は止む事は無い。 環はその森の様子に更に不愉快そうに眉を顰め、 森の姿を見たくないとでも言うように目を閉じた。 その様子を気配で感じた森はうっすらを目を開ける。 …勿論喘ぐ事はやめない。 しかし、口許には笑みを浮かべている。 楽しくてたまらない…そんな笑みだ。 そう、森は楽しんでいた。 自分を拒絶し、軽蔑する環。 その環が、自分に己自身を突き立てて、 自分が声をあげる度にその存在を大きくしていくのを感じていた。 環は森を否定する。 では、自分に入れて森に負けないくらい達している環はなんなのか。 どうして彼は今も、森を放そうとはしないのか…。 森は自分の容姿をよく理解していた。 女とヤルよりも、同姓とやったほうが気持ちの良いことも知っていた。 そして、一度でも自分と一つになった男達が、 自分に依存していく事も…。 初めは、実の兄だった。 「森…ゴメン、ゴメンな。」 兄は森を抱きながら謝り続けた。 その頬には涙が伝い落ちていくが、欲情の色が消える事は無く、 毎晩のように森を犯し続けた。 初めは抵抗していた森も、兄を止められないのだと悟ると人形のように体を差し出した。 森が小学三年のときだった。 それが親にばれたのが二年後。 ベッドの軋む音で目を覚ました母親に現場を目撃されてしまったのだ。 両親は森を抱きしめながら謝り、それ以来森は兄と会っていない。 その次は、中学校の担任だった。 「前から私の事を見ていただろう?」 とんだ勘違いだ。 その時初めてまともに顔を見たと言っても良いぐらいだった。 そこそこ顔の良い先生で、生徒から人気があった先生だったから、 誰かの視線と勘違いしてしまったらしい。 全くいい迷惑だと、森は深く溜息をついた。 その時は確か、個人授業と言う名目で 放課後に視聴覚室でいつものように犯されているときだった。 たまたま見回りに来た教頭先生に見つかってしまったのだ。 ネクタイで両腕を縛り上げられ、虚ろな目をしていた森は警察からも被害者と認定され、 担任は教員免許剥奪。 その上、最後まで森から誘って生きたのだと言い張り続けた為か、 今も警察病棟で入院中らしい。 森の両親は悩んだ。 確かにそこら辺の女の子よりも数段可愛い容姿の息子。 今まで幾度と無く変態に誘拐されそうになってきた。 森は考えた。 「じゃぁ俺、全寮制の男子校に入学するわ。」 その発言を聞いたときの両親の顔ときたら…。 何故わざわざ狙われやすいところに行かなければならないのかと全力で引き止められた。 しかし、もう何もかも遅かったのだ。 完全に森は壊れていた。 抵抗してもどうにもならない現実に疲れてしまったのだ。 どこの誰とも分からない奴らにこれ以上話しかけられてたり、 強姦されたりするのは真っ平だった。 そして森は、持ち前の頭脳でエリートの全寮男子校に編入した。 やはりと言うか何と言うか、そこはホモとバイの巣窟だった。 美人とも可愛いとも言える森は生徒達に大歓迎され、 今や生徒会長である環のセフレ兼副会長だ。 意外な事に、そんな地位を得た為か森を犯す者は学園にはいなかった。 問題は、環が森をあまり好いていないという事。 環は絶大なる人気を誇っていたが、意外や意外ノーマルだった。 では何故今森を抱いているのか。 初めは新聞部の所為だった。 わざわざ環に頼み込んで恋人同士ということにしておいて貰ったのに、 新聞部がそれが森を守るための出任せではないかと言い始めたのだ。 それからというものの、森は欲情した視線を送られることが多くなった。 そして、事件は起こった。 森は三年の先輩方に軽く拉致され、強姦されてしまったのだ。 「っや、だ…やめ…」 「いーじゃないの、森ちゃん?」 「そそ。気持ちよくしてあげるからさ♪」 「彼氏は抱いてくれないんでしょ?あ、でも嘘なんだっけ?」 下品な笑い声が耳につく。 いい加減限界だ。 死んでしまおうか…ふと、よくないことが森の頭を過ぎる。 と、 ばぁ…ん… ドアは鍵ごと見事にぶっ飛んだ。 入り口には環が佇んでいて、その顔は般若の如く恐ろしかった。 「た、…まき、ぃちょ?」 森は途切れ途切れにそう言った。 森を犯していた三人組は突然の事に呆然としていたが、 すぐにまたあの下品な笑みを浮かべて環に言った。 「あれ〜?会長サンじゃないか」 「こんなところに何の用ですか?」 小馬鹿にしたように先輩方は言う。 環も不敵な笑みを浮かべて「ちょっと、忘れ物をな」と言った。 それと同時に一番環の近くにいた三人のうちの一人を殴り飛ばした。 「っがぁ…」 「てめぇっ!!」 「何のつもりだっ、ゴラァ!!」 一人は倒れ、後の二人はいきり立つ。 環は静かに視線を森に向けた。 その痛々しい姿に自然と眉を顰める。 「この俺のモノに手を出すとは…良い度胸だな。」 「はっ、出任せなのはもう分かりきってんだよっ」 「なら、見ていくか?」 その言葉に、さすがの先輩も動きを止めた。 環は一度、彼らを鼻で笑うと森に近付いた。 「森…」 「た、まき…んっ!?」 環は森が「会長」と呼ぶ前に深く口付けた。 何度も角度を変え、時には深く、時にはただ啄ばむ様に。 森はぐったりとしつつも森の体を支えている環の腕を強く掴んだ。 「ぁっ…ふ…んん…」 先輩方が呆然と見守る中、環は愛撫を始めた。 森は環の意図が読め、大人しく身を任す。 「くっ、どうした?人に見られてヤるのは初めてだから興奮しているのか? いつもより感じているみたいじゃないか。」 いつもも何も、今初めて自分に愛撫をしてるじゃないか。 森は心の中で呟く。 しかし、口に出さないのはノーマルである環が、 自分の為にしているのだと分かっているからだ。 そして、不意に環は先輩方へと視線を移した。 「いつまで見ているつもりだ? 失せろ、カス共が。」 今まで聞いた事のないような、低いドスの聞いた声だった。 それはもう、声だけで人が殺せるんじゃないかってくらい。 その証拠に、先輩方は「ひっ」っと短い悲鳴を上げて走り去っていく。 「…大丈夫か。」 「はい、なんとか。」 「なら、部屋に行くぞ。」 環は森に自分のブレザーをかけると森を抱え、寮へと向かった。