「それはこっちのセリフだろ!?」 「え?」 「今、自分がどんな顔してるか分かってんの!?」 二人に同時に怒られ、 僕は訳も分からず二人の顔を見比べていた。 すると、三次先生がこれまた眉間に皺を寄せ、 それでも勤めて苦笑といった感じで言った。 「かなり、顔色が悪いぞ。初めはお前が寝てるなんて珍しいと思っていたが、 そんなに具合が悪いなら今日はもう寮に帰ってもいいぞ?」 「でも、僕…」 独りになりたくないよ…。 もし独りの時に眠ってしまってまた、 あの夢を見たら…次はもう戻って来れない気がする。 「俺が居てやろうか?」 何の脈絡もなしに飛び込んできた声に、 皆が驚いたように振り返った。 そこにはもう、見慣れた人物がドアに寄りかかっていた。 「な、生徒会長!?」 秋一が思い切り嫌そうに愛らしい顔を歪める。 比呂も、冷たい視線を会長に送っている。 しかし、会長はそれをものともせず、 ずかずかと教室に足を踏み入れた。 「別に問題ないだろ?俺には生徒会特権の授業免除があるし、 俺は将来医者を目指してるから多少の知識もあるしな。」 おい、待て。 何を勝手に…というか、医者!? 簡単に人を殴るようなヤツがですか!? …日本のお先は真っ暗じゃねぇか。 僕が心の中でそんな突込みをしているうちに、 話はどんどん取りまとめられていく。 「まぁ、確かに一番妥当な気もするが…」 と、三好先生。 「ちょ、待ってください!」 「そうですよ!それなら俺たちが行きます!」 納得しかけている先生に講義する比呂と秋一。 「ハン、お前らじゃ役不足なんだよ。」 「会長なら、勤まるって言うんですか!?」 「お前らよりは、な。」 途端、会長の目つきが変わった。 それは深い闇を讃えていて、 誰もがその空気に圧倒され、喉を鳴らした。 て、ちょっと待て。 僕の意思は無視かよ! 「あの!」 そう思った瞬間、僕は声を出していた。 一斉に集まる視線。 僕はそれを気にする事無く続ける。 「僕、独りで大丈夫ですから。」 「「「「…却下…。」」」」 「!?」 満場一致で瞬殺された。 よっぽど、酷い顔をしているのだろうと思わざるを得なかった。 結局僕は、(半ば強引に)会長と共に寮に戻る事になった。 「学校終わったら、直でいくからね〜!」 廊下に出て叫ぶ秋一を宥める比呂と三次先生の声を聞きながら。 「何もねぇんだな。」 「必要ないでしょう?」 寮の僕の部屋。 秋一や比呂も初めはあまりにも殺伐としている僕の部屋に驚いていた。 だって、この方が落ち着くし。 「あぁ、コーヒーと紅茶どっちが…」 「いいから、寝ろ。」 「……。」 「寝てないんだろ?」 「眠れないんです。」 「どっちでも同じだ。」 会長はソファーにこそどかりと座っているが、 僕が飲み物ぐらい出してやろうかとそう切り出すと、 実に静かな声音で僕に言った。 あながち、医者を目指しているというのは本当なのかもしれない。 「…何で、眠れないんだ?」 「…………。」 言い聞かすように紡がれる言葉。 それでも僕は硬く口を閉ざす。 重い沈黙。 先に破ったのは会長だった。 「はぁ…なぁ、仮にも俺は雷神の総長だぜ?」 「それが何か?」 「少しくらい、心の闇ってモンは分かるつもりだ。」 「……。」 「そうだろ…シュン。」 そう言って、会長は僕の眼鏡に手を掛ける。 やっぱり、ばれていたらしい。 「…いつから…?」 「バーカ…言ったろ?眼鏡の下は美人って相場は決まってんだよ。 美人って言ったら…雷神の連中も風神の連中も全員シュンって答えるに決まってんだろ。」 「訳…分かんないから…。」 それでも、一人じゃないことに幾分か安堵した僕は、 それから促がされるまま会長の腕に包まれながら眠りについた。 夢は… 見なかった…―――――