一寸先は闇。 只今の俺の心境。 ちょっと時間をくれ。 「ゴメン、無理。」 「うるせぇっ!少し頭の整理させろ、バ狩谷!!」 マジ、頼むから。 軽く頭痛さえ起きている俺の頭はパンク寸前。 どうしたらいいんだろう。 あれか、今のは聞き間違いで、 さっきのは俺にちゃんと授業に出て”欲しい”って意味か!? ぅん、そうだ。 そうじゃないとヤダ!! 「はい。」 「はい、風道君。」 「それは俺にちゃんと授業に出ろって事?」 意を決して俺は狩谷に聞く。 だってこういうときは下手に流して返答しない方がいいんだ。 じゃないと、後で痛い目見る。 そんな俺はすぐにでも避難できるように準備していた。 何となく、コイツがうんと言わない気がしたからだ。 「まぁ、それもあるけどね?僕は本当に君が欲しいんだけど?」 ほら来たよ。 コイツ変。 ホモ決定。 「あ、僕はホモじゃないよ?」 「心を読むな!」 「顔に出てるよ。僕は君が好きなの。」 「……俺はノーマルだ。」 無駄と分かっていながらも、俺は言う。 アイツはクスリ、と優雅に微笑む。 「残念、僕はバイだよ。」 「お前の趣味に俺を巻き込むな。」 「それは出来ない相談だね。」 やつの目から笑顔が消える。 顔は笑ってるけど、 あれは野生の動物が獲物を狙う時の目だ。 俺は喉をゴクリと鳴らし、じりじりと後方へ下がる。 ダメだと分かっていても、反射的にとってしまう。 目の前の…狩谷に圧倒されてしまう。 「テメェ、その嘘臭い笑顔やめろ!」 「嘘臭い?」 「そうだよ!俺はテメェのその顔が一年のころから大嫌いなんだ!」 そう言い放つと、狩谷は「へぇ…。」、と薄く笑った。 そして、次の言葉に俺は更に背筋を凍らせた。 「やっぱり、風道はいいね。ちゃんと僕を見てくれてる。」 「……。」 怖っ! ちょ、待って、コイツマジ怖いんですけど!? 掴まったら俺どうにかされちゃいそうなんですけどっ!? 今すぐここから逃げ出したくても、 残念ながら出口は狩谷の後ろ。 今の状態じゃ、逃げられる気がしねぇ。 その間にも、俺の後ろはなくなってくる。 狩谷との距離も地味に縮まっている気がする。 ヤバイ…。 そう思った瞬間、天の鐘が鳴った。 「おい、授業始まったぜ?」 「うん?あぁ、そうだね。」 「いいのかよ、優等生が出なくて。」 「あぁ、心配してくれてるの?でも大丈夫、クラスの人に伝言頼んでるから。」 俺は嫌な予感がした。 というか、少しばかり、コイツを甘く見ていた。 「”風道君を迎えに行ってきます”って。」 だから心配は無用だと、狩谷がまた笑う。 俺は本当に絶望のふちにいる事を気付かされ、 だんだん焦りが生じてきている。 だって、そうだろう? 授業が始まった。 完全に屋上に人は来ない。 結構でかい学校であるここは、5階建て。 5階ともなれば6月じゃまず窓は開けない。 つまり、俺は今完全に狩谷と二人、世界から隔離されている状態にある訳で。 考えただけでもぞっとする。 けれど、運命は残酷だ。 「…っ!?」 俺の背中はついにフェンスにぶつかってしまった。 後がない。 「あぁ、後がなくなっちゃったね。」 思い知らしめるかのように狩谷は言う。 テメェなんぞに言われなくとも分かってるっつの。 兎に角、俺、絶体絶命。