白と黒の狭間で揺れるラプソディー

ねぇ、忘れてしまっていた感情を 思い出させてくれてのはあいつらなんだよ。 康祐じゃない。 なぁ、俺たちもう終わったはずだろ? そう言ったじゃないか、康祐。 今更…もう遅いんだよ。 【白と黒の狭間で揺れるラプソディー,FILE-3】 「っ雪!!!」 突然背後から腕を強く掴まれた。 反射的に振り向くとそこには懐かしい康祐の姿があった。 「こ…すけ…」 なんて顔をしているんだ、こいつは。 折角のかっこいい顔が台無しじゃないか。 何で、ここに居るんだ? 何で、そんなに汗だくなんだ? 何でそんなに…そんなに必死なんだよ。 今は休み時間。 人通りも少なくない普通の校舎内の廊下。 俺の隣には今日は小松田が居て、やっぱりビックリした顔してる。 それと同時に、嫌悪露に康祐の腕を掴んだ。 「何、してんの?オマエ」 普段よりも幾分低い…初めて聞く小松田の声だった。 俺はそんな小松田を見上げ、首を傾げる。 小松田は俺に気付いたのか、 一瞬辛そうに顔を歪めると、ポンポンと俺の頭を撫でた。 すると今度は康祐が小松田を睨みつけ、言った。 「てめぇこそ、馴れ馴れしく雪に触るな。」 「オマエに言われる筋合いはない。姿を見せるなと言っただろう。」 「了承した覚えはねぇ。」 2人の会話を、何処か他人事のように俺は聞いていた。 そして、合点がいく。 つまり、俺がおかしくなったあの日から。 宮坂と小松田は交代で康祐に牽制しに行ってくれていたのだ。 おそらく、俺とばったり鉢合わせてしまわないように。 今、ここに康祐が居るという事は、 宮坂の目を掻い潜ってきたと言う事なのだろうな。 「毎日毎日、ホントうぜぇ奴らだったが… 今はお前らが良い目印になってくれたぜ? 小松田は身長あるし、宮坂は派手だしな。」 「……貴様。」 嘲笑うような康祐の笑みに、 滅多に怒らない小松田がブチ切れ寸前だ。 これはあまりよろしくない展開だ。 そう思った俺は咄嗟に康祐の腕を払い落とした。 「!?」 「雪都…」 パシン、と乾いた音がやけに響く。 いつもは煩い廊下も、 俺たちの異様な空気に反応して今日ばかりはだんまりだったから。 自由になった腕を数回さすり、 康祐には目もくれずに小松田を見上げる。 「行こう、小松田。」 「……あぁ。」 先程まで怒気を孕んでいた小松田の顔は、 今はその影もないくらい穏やかだった。 俺はそのことに安堵し、 康祐に背を向けて再び歩き出す。 しかし、タイミングよく我に返った康祐に再び腕をつかまれ、 足が止まってしまった。 「待てよ、雪…俺はっ」 「康祐…いや、御津…放せ」 「ゆ…」 力をなくした康祐の腕は、簡単に外れた。 明らかにショックを受けてます的な顔をしている康祐をそのままに、 俺は今度こそ足を前に進めた。 「はぁ、はっ…雪ちゃん!!」 少しして、前から宮坂が汗だくで俺に抱き着いてきた。 運動の得意なこいつがこんなに息を切らしているのは珍しく、 このだだっ広い大学校舎を今まで走り回って探していたのかと思うと、 何だかくすぐったい様な嬉しい様な感じがした。 「ごめっ…はっ、俺アイツ逃がしちゃって、はっはぁ…」 「うん、いいよ。大丈夫だから…。」 「ホント…ごめ…」 「いいって…小松田も、ゴメンな。んでもってありがとう、2人とも」 「…雪都。」 「雪ちゃん、雪ちゃん…」 居なくならないで。 ねぇ、康祐。 何でまた俺の前に現れたんだよ。 知ってる? 俺ね、お前に… 好きって言われたこと無かったんだ。 なぁ、俺たちはもう終わってんだろ? そうだろ? 頼むから、もう俺に構わないでくれよ…。 なぁ、知ってるかよ? 俺は本気でお前が好きだったんだ。 好き”だった”んだよ…。