白と黒の狭間で揺れるラプソディー

変わらないね。 変わらない…だから一目で分かったよ。 ねぇ、お願いだ。 その目を俺へ絶対に向けないで。 もし向けられたら俺は…------ 【白と黒の狭間で揺れるラプソディー,FILE-2】 その姿を見たのほんの偶然だった。 俺は借りていた本を返す為、 この大学ご自慢の図書室へ向かっていた。 勿論、宮坂と小松田も一緒に。 2人は漫才コンビのようにボケとツッコミを展開させながら俺の前を歩く。 だから、2人はきっと気付かなかったと思う。 図書室へ通じる渡り廊下。 その、渡り廊下から見渡せる位置にある中庭の、 大きな桜の木下で長い足を優雅に組みながら眠っているアイツの姿に。 「……っ」 俺は息をする事も忘れ、 しばしアイツ…康祐を見つめていた。 途端、胸に走る痛み。 溢れそうになる涙を何とか堪え、 見入ってしまった事で少々遅れてしまっていた足を懸命に動かし、 また、2人と元の距離を保ちながら歩く。 しかし、頭の中は康祐で埋め尽くされていて、 いつもは少なからずた楽しんで見ている2人の漫才も、 全く頭に入ってこなかった。 それに目敏く気付いた宮坂は、心配気に俺の顔を覗き込む。 小松田は、何故俺がそうなっているのかを察したらしく、 緩い動作で頭を撫でてくる。 あぁ、だから嫌なんだ。 二人と一緒にいるのは。 「も、大丈夫…大丈夫だから… 甘えてしまいそうになるからもう止めて…」 俺は先程我慢したばかりの涙を再び必死に堪え、 2人にそう告げる。 2人の手を無理やり振り払い、 俺は再び歩き出す。 後ろから追ってきた2人が、 また俺の頭や肩を抱き、 「「甘えてしまえ」」 と、珍しくはもったのを聞いて俺は笑った。 2年経っても癒える事のない傷は、 宮坂と小松田の存在によって癒されているのかもしれない。 これは愛? 俺はまた人を愛せるだろうか…。 恋じゃなくていいんだ。 俺に愛をくれるこの2人には、 いつか、 俺の精一杯の愛を返したいよ… 俺たちは3人で行動していた。 けれど、次の日から、 2人で行動する事が多くなった。 宮坂だったり、小松田だったり、 2人が俺から離れた訳では無さそうだし、 2人が喧嘩した訳でもないようだった。 だって、昼休みや帰りは一緒にいたから。 妙な違和感を感じつつも、 俺は気付かない振りをした。 気付いてはいけない気がした。 ただ、いつもは両脇を固めてくれている2人が、 どちらか1人になってしまったことは何となく寂しかった。 そんな日々を一週間ほど繰り返した時、 急に宮坂が言った。 「ねぇ、雪ちゃん」 「ん?」 「俺たちはさ、何があっても雪ちゃんの見方だからさ、 お願いだから昔みたいに1人で抱え込んだりしないでよね。」 「…それは康祐の事?」 「うぅん…それ以外でも。 雪ちゃんは甘えていいんだよ。 拒絶しないでいいんだよ。傍にいるよ。俺も嶺もずっと。」 「……」 「覚えておいてくれるだけでいいんだ。ね?」 「…うん。」 普段はおちゃらけてばかりいる宮坂があまりにも真剣な顔して言うもんだから、 俺はそのまま頷く事しか出来なかった。 すると、またいつもの宮坂に戻ってくれて、 抱きしめてきたんだ。 「?宮坂…どうしたんだ?」 「うん。雪ちゃんが消えないようにおまじないしてるの。」 「??本当にどうしたんだ、宮坂。きもいぞ?」 「酷っ、酷いよ雪ちゃ〜んっ」 そう言ってもっと腕に力を込めてくる宮坂。 俺は聞けなかった。 ねぇ、宮坂。 小松田は今、何処で誰と何してるの? 何を俺に隠してるの? 二人の傍から居なくりしないから教えてくれよ…。 じゃないと、不安でたまらないんだ。 そして、数日後、 俺たちが危惧していた事が、 「っ雪!!!」 起こってしまった…。