白と黒の狭間で揺れるラプソディー

忘れよう… そう思えば思うほど、 お前の顔が頭にちらつくんだ。 なぁ、お前は何処まで俺を追い詰めれば気が済むの?? 【白と黒の狭間で揺れるラプソディー,FILE-1】 あれから…康祐と別れてから2年が過ぎた。 俺は大学生になり、 今も提出期限間近のレポート作成に追われている。 康祐と別れてから、俺は人を信じられなくなった。 所謂、人間不信だ。 1人でいる事を好むようになり、自然と周りとの距離は開いていった。 まぁ、例外もいるが…。 「雪ちゃん、どったの?考え事??」 大分遅れてしまったが、”雪”こと神楽雪都(カグラ ユキト)は俺だ。 そして、軽い口調で俺に話し掛けてきたのはさっき言った例外の1人、 宮坂俊介(ミヤサカ シュンスケ)である。 「いや?」 「そーぉ?何か雪ちゃん今儚く見えたからさ。 俺、ちょっと怖かった。」 「何で?」 「だって雪ちゃん…」 今にも消えてしまいそうだから。 金髪、そして耳にあけられた無数のピアス、 ちゃらちゃらしている様に見えて、宮坂は鋭い。 高校2年の時からの付き合いだから間違いないだろう。 いつも、俺の確信を付いてくるから実はちょっとばかり苦手だ。 「馬鹿なこと言うな。そう簡単に消えられるなら俺はきっとここにはいないよ。」 「…そっか。」 高校3年の時、俺は康祐と別れた。 勿論それは宮坂も知っている。 だからかは知らないが、俺がそう言うと宮坂は悲しそうに笑った。 「雪都、また俊介が迷惑かけてるみたいだな。」 「げ、嶺…」 「いや、もう諦めてるから気にするな。」 「ぇっ、雪ちゃん!?」 宮坂が言った”嶺”とは、小松田嶺(コマツダ タカネ)という。 こいつも宮坂と同じ付き合いだ。 宮坂が初めて俺に声をかけてきた時、小松田もいたのだ。 何故宮坂と知り合いなんだ、と思ってしまうくらい真面目な奴だ。 黒の短髪は、トリートメントでもしてるんじゃないかってくらい サラサラしているのが分かる。 ただ、2人とも美形で何となくお似合いな感じがするのも事実だ。 そして、こいつら2人が俺にとっての例外な奴ら。 どんなに冷たくあしらっても宮坂は話しかけてくるし、 小松田も何だかんだいって、きっちり宮坂のお守りをしている。 だから、俺にべったりな宮坂と世話係の小松田、 そして俺のメンバーで行動する事が多い。 しかし、平凡な俺が美形なこの2人と一緒にいるのを快く思っていない輩が居るのも事実で、 今も学食で談笑している俺たちを遠巻きに見ながら何やひそひそと話している。 はっきり言って、迷惑極まりないが仕方がない。 宮坂がこんな状態でも俺から離れる気はないと言ったからだ。 まさか、大学まで付いてくるとは思わなかったが…。 しかし、助かっている事もある。 「雪都。」 「何、小松田。」 「ここに、あいつ来てるぞ?」 「……」 「はぁっ!?何それ。」 俺が何かを言う前に宮坂が言う。 小松田は呆れ顔で宮坂を一瞥すると、再び俺に視線を戻した。 「ここに、あいつの仲間がいたみたいで、 そこからお前の情報が漏れたらしい。」 迂闊だった。 康祐は、当時、”gate”という不良チームの総長の右腕だった。 今は総長になったらしいが…。 教えてくれたのは無論小松田だ。 そこで俺は初めて小松田が情報屋である事を知った。 そして、宮坂と友好関係があることに納得がいったのもこの時だ。 高校1年の時…俺が康祐と付き合いだした時から、 2人は俺が同じ学校に通っていたことを知っていたらしい。 康祐の恋人となったことで俺が不良に絡まれやすくなっていたことも、 …康祐の浮気癖も。 1年間は様子見も兼ねて、敢えて声を掛けることはしなかったらしい。 しかし、1年経っても変わらない康祐に怒りを覚えた宮坂は、 『お前、いい加減目ぇ覚ませよ!!』 と、初対面の俺に怒鳴り込む形で話しかけることになってしまったのだ。 当然のように驚いた俺は、宮坂を思い切りぶっ飛ばした訳だが…。 大学受験に入る前、勉強をする為に集まった図書館で俺は言った。 『俺、別れてきた。』 瞬間の二人の顔は少し笑えた。 その後、宮坂はあからさまに喜び小松田に怒られていたが、 その小松田も、何処か安心したように俺に静かに微笑んだ。 住居を変え、携帯をぶっ壊し、 髪は赤から地毛に戻す為、ばっさり切った。 俺の髪は生まれたときから金に近い茶だ。 その為か、俺の顔を知っていたチームの奴らも気付かなかったのだろう。 小松田情報によれば、俺が転校したかもしれないという話もあったらしい。 ここまで言えば分かると思うが、康祐は俺を捜していた。 何故かは…分からない。 俺に振られたことでプライドが傷付いてしまったのかもしれない。 どちらにしても、俺は会う気はない。 もう、終わった事なのだ。 そうだろう? 康祐。 俺はそう結論付けて、まだ怒り心頭中の宮坂を軽く叩き黙らせた。 宮坂は唇を尖らせたが気にせず俺は言った。 「ありがとう、小松田。 でも、関係ないよ。きっと、アイツの気まぐれだ。」 「雪都…」 「俺は大丈夫だ。アイツが俺を見つけられる訳ないだろう?」 そう言い切ると、2人は複雑そうな表情を浮かべて黙り込んだ。 そんな2人に困ってしまった俺は、軽く笑みを作る。 所謂、苦笑というやつだ。 「雪都、お前はもう少し自覚した方がいい。」 「?…何を??」 「雪ちゃんは、自分が思ってるよりも美人ってこと。」 「は?」 意味が分かっていない俺に2人は溜息を吐く。 それにはちょっとムカついたけど、敢えて口にはしなかった。 だって、2人があまりにも真剣に見つめてくるから。 「雪ちゃん、ホントに気をつけてよ?」 「何で?」 「何度も言ってるだろ? 御津康祐(ミト コウスケ)は今でも雪都を探してるんだよ。」 「あぁ…。分かってるよ。 ボコられないように気をつける。」 まぁ、そう簡単に負ける事はないと思うが。 康祐との戦闘シュミレーションをしていた俺は、 2人が再び溜息を吐いた事に気付くことはなかった。 康祐が、同じ大学に入った… だからなんだ。 俺には関係ない。 俺は誰も好きにならない、 好きになれない、信じられない…。 そうしたのは康祐、 オマエなんだぜ? 今更、何で俺を捜すの? 康祐、俺にはもうお前が分からないよ…。