LOST

僕は”物”じゃない 誰の”モノ”でもない 僕は僕の”モノ”… お兄ちゃん、 物語はもうすぐENDを迎えるよ… 【lost act,20】 コタが発見した隠し部屋へと続く路。 この先に春日がいる。 翔伊たちは一言も話す事無く、 無我夢中でその路を走っていた。 長い、長い廊下の突き当たり…。 そこから僅かに聞こえてくる声。 間違いなく2人はそこにいる。 「…っ、シュン」 そう声にしたのは誰だったか。 確認する間もなく翔伊はその扉を開けた。 「春日っ!!」 室内に翔伊の声が響く。 と、同時に彼らは息を呑んだ。 怒りでもなく、 恐怖でもなく、 驚愕で…ーーーーー 「やぁ、遅かったね。 春日は今俺の手に堕ちたよ」 やけに嬉しそうに話す冬路の声が、 彼らの鼓膜を振動させた。 その部屋はまるで手術室のようだった。 ピッピッ…と言う機械音、 円形の可動式電気、 人1人分の広さしかない寝台 医療器具の乗った台車。 辺りには薬品が入っていたであろう棚のガラス部分が散らばっていた。 そして、灯油の匂い。 冬路の腕には、 春日の体が力なく凭れている。 意識はあるのか薄らと目を開け、 翔伊たちを捉えてはいる様だが、その目は光が無かった。 「冬路…貴様、春日に何をした…」 怒りで翔伊の声が震える。 そんな翔伊を見て、また、冬路が哂う。 「何って? 俺が春日に何をしなければならないの? 春日は選んだんだよ? 俺をさ。 どうしてそれを認めてくれないの? どうして俺から春日を奪うの?」 「訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ! 今のそいつに何が選べるってんだ、あぁ!?」 噛み吐くように叫んだのはギンだ。 他のメンバーも弾かれたように冬路を睨みつける。 「アンタ…頭可笑しいんじゃないの?」 「俺らのリーダー、早く返してくんない?」 「シュンがいないと俺らも死にそうなんですけど」 艶、蓮、昏の準で冬路ににじり寄る。 しかし、冬路は口許に再び歪んだ笑みを浮かべ、 春日の耳元に唇を寄せる。 そして、 「春日、みんな消しちゃおうか?」 脳に直接語りかけるように、 ゆっくりとそう呟いたのだ。 ビクリ、と春日の体がひとつ震える。 落ちかけていたガラス片を握る手に再び力が込められた。 「…かす、が?」 翔伊の目が驚愕に開かれた。 未だ光りを取り戻していない春日の瞳。 そこにあったのは底冷えしてしまうほどの悲愴だった。 絶対的悲しみ。 それだけが春日を支配する。 冬路のものなのか、春日自身のものなのかはわからない。 けれども確かにそれはあった。 ゆらり、春日が一歩踏み出す。 翔伊は弾かれたように叫んだ。 「っ、外へ出るぞ!!」 途端空切る白刃の光。 誰もが悔しそうに唇を噛んだ。 一同は春日に背を向け走り出す。 だから、 気付けなかったのだ。 その時、 春日が微笑んだ事に。