LOST

嫌な予感がした。 全てを背負い込むアイツだから。 気を失う瞬間に見たアイツの顔が、自分を責めていたから。 違う、…お前の所為じゃない。 そう言ってやりたいのに、俺は伝えてやる事が出来なかった。 今行くから。 傍に行くから。 自分を責めるなよ…。 お前は一人じゃないだろう? 今行くから、 俺の前から消えないで。 【 lost act,19 】 兄貴を止めるには、こうするしかないんだ。 自分に言い聞かせ、そろそろ幕を下ろそうと思った。 「…春日…?」 「お兄ちゃん…もう終わりにしよう?」 僕は兄貴を真っ直ぐ見詰める。 手には鈍く光るガラス片。 鋭利なそれは容易に僕の掌を切り裂いた。 滴り落ちる血に兄貴は眉を顰めた。 「春日、危ないよ。…それ、お兄ちゃんに渡しなさい?」 優しく、言い聞かせるように囁く兄貴。 僕はそれを見て自嘲気味に微笑んだ。 兄貴は目を見開き少し焦ったように再び言う。 「春日…早く渡せ。」 僕は被りを振る。 だって、僕は幕を下ろさなければならないから、 ガラス片はそのために必要なものだから。 「かす…」 「僕がっ」 兄貴が何かを言う前に、僕はその言葉を遮った。 兄貴がごくりと、つばを飲む。 僕は兄貴が押し黙ったのを良いことに、口を開く。 「僕が…いなければ、お兄ちゃんは助かるの」 「……?」 「僕がお兄ちゃんを狂わせてしまっていたんだよね? 僕が元凶…僕がいなければ良かったんだ。」 「春日…?お前、何を言って…」 兄貴は分からないと言うように眉間に皺を寄せる。 そして、僕に近寄ろうとこちらへ来ようとしたから、 僕は持っていたガラス片を兄貴に向ける。 兄貴は足を止めて、信じられないと言わんばかりに目を見開いた。 「こっち来ちゃダメ。」 遠くで何人かの足音が響いてくる。 兄貴にも聞こえているらしく、目を細め背にしているドアを睨む。 僕はその様子を黙って見つめる。 足音は次第に大きくなり、こちらに近付いているのだと分かった。 僕は問う。 「お兄ちゃん、さっき、害虫駆除って言った?」 「あぁ…。どうやらお出ましみたいだよ。」 「ねぇ…”害虫”って??」 僕は恐る恐る聞く。 兄貴の顔が醜く歪み、発せられた言葉は僕を驚愕させた。 「さぁ、春日…教えてあげなさい… ”お前は誰のモノだ?”」 さぁ、コレからが本番だ。 まだ幕は降ろさせやしないよ。 そう哂う兄貴の声が 僕の意識を支配した。 残ったのは、深い暗闇と、 自分で切った 手の熱さ。