LOST

止めなくちゃ。 それが出来るのは僕だけだから。 あの人の思いは思い出した。 今、そこから助けてあげる。 【 lost act,18 】 「あぁ…くそ、腹立つ。」 「言わないでください、誉。みんな同じ気持ちです。」 落とし穴のついた先は、一行が入ってきた病院玄関の入り口だった。 怪我は無いものの、まさか落とし穴なんてものに落ちる事になろうとは…。 かなりの間抜けである。 普段、周りの生徒からカッコイイと言われている彼らにとって、 それはかなり凹むものだった。 「ねぇ、昏。」 「何?どした、艶。」 「Sがうたれ弱いって本当なのな。」 艶のその言葉に、再びショックを受ける”雷神”メンバー。 顔は、学校の生徒よりも可愛い艶にそう言われ、威力はさぞ強かっただろう。 この場にシュンがいない事が何よりも救いだったに違いない。 「それよりも、俺は…」 そう言ったのは蓮だ。 視線の先には翔伊がいて、何やら黒いオーラが立ち込めている。 「あぁ、…マジムカつく。大体アイツは昔から可愛さというものが無かったんだ。 脳みそだけが優秀だとコレだから困る。 アイツが幼稚園に上がりたての頃兄貴の家に遊びに行ったら、蛙の解剖だぞ? 園児が蛙の解剖して、笑ってるってどうよ。そのあと何となく脈打ってる心臓持って 『おじちゃーん、みてみて〜コレ”シンゾウ”っていうんだって〜♪』 って、追いかけてきたんだぞ??怖い以外のナニモノでもないじゃないか。 小学校に上がった頃は……」 呟かれる言葉は呪いの言葉に等しい。 「翔伊サン、マジ切れ5秒前ってやつぅ〜?」 彦は口調こそいつもと変わりないが、顔を青くして翔伊を見る。 他のメンバーも、いつもクールな翔伊の異様な切れ方に言葉をなくすしか無かった。 「でも、これからどうするんです?」 話を切り替えなければと、礫が口を開く。 それを美味く感じ取った昏が頷いた。 「そうだな、もう医院長室にはいないだろうし…やっぱここは、」 「シュンを見つけるしかないね。」 艶も昏に続き、顎に手を当て考え込む。 「ンなもん、そこら辺にある部屋一つ一つ見ていきゃいーじゃねーか。」 「馬鹿ですね、誉。この廃病院がどれだけ広いと思ってるんです? そんなことをしていては、いつまで経ってもシュンは見つかりませんよ。」 誉の言う事は最もだ。 今の状況で考えられる、一番確実な方法であることに違いは無い。 しかし、シュンの安否が分からない現段階では、あまりにも時間がかかりすぎる。 「ところがどっこい、そうでもないんだな〜♪」 この場にそぐわない、明るい声が響き、 一斉に振り向いた。 声の持ち主、廉太郎はにやりと笑い、青く光るパソコンの画面をみんなに向けた。 「”風神”ほどじゃないけど、オレの情報網だって、そう悪くないんだぜ?」 そこにはこの廃病院の見取り図が映し出されていた。 そして、とある一点だけが赤く光っていた。 「コタ、この点滅してる場所って…」 「そう、さっきまでオレたちがいた医院長室。おかしいと思ってたんだ。 コレだけの広さがある病院の医院長室の広さはあんなもんじゃない。 デスクは部屋の中央で、ソファも3人掛けのものが在るはずなんだ。」 それが無かった。 あの部屋は医院長室にしては狭すぎたのだ。 一同はそういえばと廉太郎を見る。 「他に医院長室らしきものは見当たらないし、 なによりも都賀 冬路がオレたちの誰かに掴まるかもしれないという状況下で、 あの部屋から出て行こうとしなかったことが何よりも不思議だったんだ。」 「…隠し部屋…」 「そのとおり、さすが機転が働くじゃん、”blood rain”の元総長さん」 「…やめろ」 ”blood rain”の名前を出した途端、昏の空気が強張る。 戦闘要員ではない廉太郎は高をすくめ、早々に話を切り替えた。 「まぁ、今言ったようにあの部屋にシュンがいる部屋が繋がってる可能性が高いってコト♪」 「じゃぁ…」 「いくしかないだろう。」 「その為に来たんだからね!」 礫、誉、艶が踵を返す。 残りのメンバーも、その後に続いた。 しかし、翔伊は何となく嫌な予感がしていた。 それは、昔は仲の良かった兄弟である事を知っているから故のものだった。 (春日…変な事考えるんじゃねぇぞ…) バシャッ、バシャッ、と水の音がする。 ぐらつく体を何とか起こして、僕は音のするほうへ行った。 「お、兄ちゃん…?」 そこには兄貴がいた。 兄貴は僕の声に気が付くと、優しく微笑んでくれた。 ばら撒いていたのは匂いですぐに灯油だと分かった。 「春日…起きたんだね。記憶も戻ったみたいで安心したよ。」 「…消したのは、お兄ちゃんだよ。」 「うん、ゴメンね。」 「灯油…」 「ん?」 「どうして灯油撒いてるの?」 「あぁ…コレは害虫駆除のために…」 一瞬にして兄貴は狂気に塗れた顔をした。 それは昔、僕の前に現れたときとは比べものなら無いのもで、 その原因が僕なのだと思うと、悲しかった。 あぁ…終わらせなくちゃ… 近くのガラス片を握り、僕は兄貴に気付かれないように近付いた。 「もぅ…終わりにしよう?」