LOST

体が急速に冷えていくのが分かった。 一瞬、死んだ…と思った。 や、多分マジで死んだと思う。 けど… 『爛っ』 「………シュ、ン…?」 あぁ、俺…行かなくちゃ。 【 lost act,16 】 やけに緊迫した空気の中。 男は飄々と言った。 「翔伊サン、老けましたね。」 「言うに事欠いてそれか?」 「両親(あの人達)死んだんですってね。」 「オイコラ無視か? …俺はてっきり、お前が何か細工して殺したんじゃないかと思っていたんだが?」 「ははっ、そんなことしないよ。 俺は春日さえいればそれで良いんです。」 口調は穏やかに、けれど空気は殺意で満ち溢れていた。 その場にいた誰もがゴクリと息を呑む。 彼らは初めて”殺し合い”の空気を感じていた。 「…で、今日は何の用?」 男は翔伊たち一人一人を一瞥し、 鋭さを含ませた声で言う。 翔伊はにやりと悪い笑みを浮かべて言い切った。 「分かりきった事聞くんじゃネェよ」 「さぁて…何のこと?」 「春日はどこだ。」 翔伊は一切の表情をなくした顔で男に言う。 その瞳は剣呑に光り、どこまでも冷たかった。 しかし男はそれを諸共せずに受け流し、笑いを含んだ声で言う。 「言うと思う?」 「いーや?」 「ねぇ、翔伊サン? 俺、前からあんたの事大嫌いだったんだ。」 「奇遇だなぁ…俺はてめぇが超が付くほど嫌いだ。」 「ははは…マジ死ねよ。」 空気が最高潮に張り詰めたその時、 男のその言葉が合図であったのだろう。 翔伊たちを取り囲むように柄の悪い人達が現れた。 その手には黒く光る鉄の塊や、鋭くとがった刃物が握られている。 あまりにも穏やかでないその状況に一同は体を振るわせた。 「あれ?怖いの?」 男は馬鹿にしたように彼らに言い放つ。 けれど、帰ってきたのはなんとも言いがたいものだった。 「昏、蓮どうしよう…」 「あぁ…」 「分かってる。」 艶が肩を抱くようにして仲間に問いかける。 二人も艶の言おうとしている事が分かるらしく短いながらも同意の返事を返す。 チャキ… 冷たい音がする。 弾が込められた証拠だ。 震えが止まらない。 衝動を抑えられない。 「も、良いよね…?」 「「「…我慢の限界…」」」 瞬間、前方で構えていた男の部下であろう者達が、 何人も床に倒れていた。 『!!??』 「いくら武器がよくても、使い手がこんなんじゃ、可哀想だよ…。」 クスクスと愉悦に満ちた顔で艶が哂う。 大きなアーモンド形の目を軽く細め、 床に平伏す男達を見下げる姿は何処か艶めいていた。 そんな艶を信じられないといった様子で見つめていた他の男達は、ごくりと喉を鳴らした。 「僕らただでさえシュンに会ってなくて情緒不安定なのに、 そんな良いもの見せられたら押さえが利かなくなっちゃうよ…。」 「全くだ…こんなに血が騒ぐのは久しぶりだぜ。 骨の折れる音、醜い断末魔…サイコーじゃぁねぇの…。」 艶の言葉にそう付け加えたのは昏だ。 昏は、普段の温和な笑みを凶悪なものに変えつつある。 「…コレが、元”blood rain”総長の本性って訳か…」 地面に転がった銃器を解(バラ)しながら、廉太郎は呟いた。 礫は目を見開き廉太郎に言った。 「”blood rain”ってあの?」 「うん、オレも初めて見たときは信じらんなかったけど。」 「はっ…どーりで俺たちが手を焼く訳だ…ぜっ!。」 誉も見事な上段蹴りを披露しつつ、一人また一人と男達を蹴散らしていく。 その後ろでは彦が床に寝転がっている男達の懐から財布を抜き取っていた。 「って、おいこら、ヒコ!!何やってんだよっ」 「え〜??いーじゃん。どうせこいつら豚箱行きでしょ〜? 財布なくても困んないって。」 「そういう問題じゃネェ!!つーか、テメェも少しは働け、よ!!」 誉、今度は綺麗な踵落しをきめる。 彦に対するイラ付きを男にぶつけているのでいつもよりも容赦がない。 彦はへらりと笑みを浮かべ、 「だって、俺が今手を下したらこいつらみんな死んじゃうよ??」 と言った。 そこで、メンバーがはたと気付く。 「…そういえば、ヒコって…」 「馬鹿力…」 「だったね。」 そして、そのセリフが言い終わると同時に、最後の男が床に沈んだ。 「ふむ、中々やるじゃないか。」 冬路は感心したように顎に手を添え、 満足そうに呟く。 その顔はやはり笑みを湛えていたが、そこに感情は見当たらなかった。 「春日は、どこだ?」 翔伊が静かに言う。 冬路は笑みをいっそう深いものにし、真っ直ぐ翔伊を見つめた。 そして、白衣のポケットの中に手を突っ込み、ゆっくりとした動作でそれを取り出すと、 「誰が言うか、バーカ。」 子供のような口調で高らかに言い放ちそして… 手の内の装置のボタンを押したのだ。 「「「「「!?」」」」」 ガコン、という音と同時に浮遊感に襲われた瞬間、 彼らは落ちていった。 「冬路っ!!!」 翔伊が冬路の名を叫ぶ。 冬路はそれを冷ややかに一瞥すると、呟いた。 「春日は、渡さないよ…。」