LOST

何もない。 見えない、何も。 あ、僕…今ヒ トリ だ。 【losr act,14】 誰もが絶句した。 その惨状に、 或いは、その異常さに。 ”雷神”の案内のもと、翔伊がその場所へ付いたのは、 春日がいなくなってから2日後のことだった。 その場所とは、爛が倒れていた場所。 つまり、春日の消えた場所。 あの日、爛は春日の兄、都賀 冬路によって刺されてから3時間後に病院へ運ばれた。 勿論、二人の後を追ってきた”風神”が発見したのだ。 容態はかなり危険な状態だったらしく、一時は心配停止状態になったらしい。 そんな生死の境を彷徨った爛だが、今はもう心配はないという。 その生命力の強さに医師は大層驚いていた。 「本当に、彼が助かったのは奇跡ですね。 何があったのかは知りませんか誰かを助けに行こうとしたみたいですね。」 その話を聞いたとき、 その場に居合わせていた”風神”の幹部達は一瞬でシュンのことを思い浮かべた。 「すごく大事な人なんでしょうね。 彼が、目を覚ますほどに…」 「え!?」 「目、開けたんですか!?」 「えぇ、しかもしゃべりました。 手術を終えて病室に運ぼうと彼を動かした瞬間、 麻酔も切れてないのに彼、私の腕を掴んで言ったんですよ。 『アンタにそいつは渡せない、 必ず連れ戻す。』 とね。」 医師は、一度ふわりと微笑むと、翔伊に軽く頭を下げ、 その場を立ち去った。 残された者たちは皆苦笑を浮かべていた。 「…ったく、何処までも”シュン馬鹿”だな。」 昏が、小さな溜息を吐きながら言う。 それに反応したのは艶だ。 「それは僕達も、だよ?」 「違いない。」 蓮もくすくすと笑い出す。 翔伊はメンバーがいつもの調子を取り戻した事に安堵しつつ、 爛の病室へと向かった。 ----------暗い。 お父さん? お母さん? …翔伊… …皆…ドコ? 春日は暗闇の中にいた。 自分の体は見えるのに、そこには何もなかった。 どうして。 何で。 そんな言葉ばかりが頭を過ぎる。 「春日、どこを見ているの?」 「?」 「俺以外の奴らは、皆お前を捨てて出て行ったよ?」 「……そだ。」 「嘘じゃないよ。」 「嘘だ!!」 「じゃあ何で、春日はヒ ト リ なの?」 「…。」 突然、降って来た声に、戸惑いながら、 春日はその見えない誰かに怒鳴っていた。 しかし、声の持ち主はさも可笑しそうに言葉を続ける。 「可哀想な春日。 誰からも愛されず、たった一人ぼっち。」 「…黙れよ…。」 「だってほら、君が大切だと思って良いたやつらは、 現に今、ここにいないじゃないか。」 「煩いっ!!」 春日はついに耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込んだ。 首をゆるく左右に振って、全てを拒絶する。 そんな春日に、声の持ち主はニタリと笑う。 そして、今まで姿の無かった声の持ち主は、 しゃがみ込む春日の肩に触れた。 ビクリと、反射的に春日の体が揺れる。 しかし、それを気に留めた風もなく、 ”声”は優しく春日の鼓膜を振るわせた。 「大丈夫、怯えないで。 俺が一緒にいてあげる。」 冬路は穏やかな笑みを浮かべて、眠る春日の腕に手に持っている注射器を差した。 もう、何度もその行為を繰り返されている春日の腕は、 打撲したように青く晴れ上がっている。 冬路は注射器の中の液体を全て春日に投入すると、 針を抜いてその腕にキスをした。 それは腕から肩、鎖骨、首筋へと上っていき、 たまに軽く吸い上げて紅い花びらを散らした。 その度に春日の体はピクリと反応を示し、 冬路は愛しげに微笑んだ。 「春日…春日…」 春日の耳元へ唇を持っていき、 耳朶に軽い愛撫をしながら吹き込むように囁き続けた。 オカエリ、愛しい人。 もう放さないよ。 ずっと傍にいてあげる…だから 俺を愛して…? 異常とも言えるその行為を、 止めるものはまだいない。