LOST

この… 湧き上がる愛しさはなんだろう。 今までにない感覚。 気持ちが高鳴る。 もぅ、抜け出せない。 【lost act,12】 恐怖を感じたのは、何年前のことだっただろう。 「っ…はっ…はぁ、はぁ…」 僕は走っていた。 人の気配のない路地裏を。 ただひたすら。 逃れるために。 走りながら考える。 …何故こんな事になってしまったのか… 「春日がいなくなった!?」 あまりの衝撃に、いつもは冷静な翔伊が声を荒げ、 目の前の生徒達を険しい表情で見つめた。 生徒…基、春日率いる”風神”の敵対チームである”雷神”の幹部メンバーは、 神妙な面持ちで頷いた。 「…何があったんだ。」 有無を言わさない声音に、誉たちは一瞬怯んだが、 すぐに思いなおし、 それでも些か震えた声で語りだした。 「俺たちにも、よく分からないんだ。」 「いつも通りの集会のはずだったんです。」 「風神の連中も状況が理解できてないみたいだったし…。」 まだ、混乱しているのだろう。 それぞれが戸惑いを隠す事無く、 いつもの彼ららしからぬ口調だった。 「……怯えていたんだ。」 ポツリと、卯月が言った。 それによって翔伊の視線は卯月の方へと移動した。 卯月はなんら普段と変わった様子はなく、 相変わらず眠たそうな顔をしていた。 未だ、冷静さを欠いていた翔伊にはその落ち着いた様子に我に返った。 「いつものようにぃ、俺たちは風神の幹部とどーでもいー言い合いしてぇ、 お互いイライラしながらも楽しんで〜、やっぱり、殴り合いしてたんだぁよねぇ。 でも……」 「…見つけた…。」 底冷えのするような声だった。 殴り合っていた俺たちが思わず手を止めてしまうほどには。 声の主に目を向けると、 そこには一人の男が口許に笑みを携えながら立っていた。 当然、シュンも振り返って声のした方に目を向けた。 その瞬間、シュンは目に見えて動揺した。 自分が何で動揺したのかも分かっていないみたいだった。 その後、自分の震える両手を見つめて驚いていたみたいだから。 「春日…」 はっきりとは聞こえなかったけれど、 そいつは確かに呼んだんだ…シュンの本名を。 そして、そいつはシュンの元へと歩き出した。 シュンは目を見開いたままその男を見ていて、 俺たちも金縛りにあったみたいに誰一人動けないでいた。 シュンまで後3歩ぐらいってところで、 突然シュンが弾かれたように男に背を向けて走り出したんだ。 「シュン!?」 爛がすぐさまシュンの後を追い出してシュンと一緒に路地裏の奥に消えていった。 「おや?逃げられてしまったかな。」 「誰だよ、アンタ。」 艶がいつもより数段鋭い声で男に言った。 「あぁ、君たちは春日のお友達かな?」 「誰だって聞いてるんだけど?」 シュンが消えていった路地裏の道を隠すように立ちはだかる”風神”メンバー。 昏が間髪いれずにもう一度問う。 男はそんな態度に腹を立てることもせず、 にこり、と笑みを浮かべた。 「俺かい?俺は…」 「……っだって?」 翔伊は絶句した。 そして、今にも飛び掛りそうな勢いで声を張り上げる。 「そいつがっそう言ったのか!?」 「っ……あぁ、間違いない。」 尋常じゃない翔伊の様子に全員が困惑する。 「都賀 冬路(ツガ トウジ)…そいつは…」 「春日の…実の兄貴だ。」