LOST

「え、何だ。ばれたのか。」 まるでなんでもないことのようにそいつは言った。 「随分あっさりしてるんだな。」 僕はじと目で睨みつけ、 コーヒーを啜った。 「うん?だって、シュン命の彼らが眼鏡とカツラくらいで騙されるなんて思ってなかったし。 むしろ、春日はよく一年間隠せたよね。 所詮あの子らのシュンへの気持ちはその程度ってことかな?」 「翔伊って、たまに本当に殺したくなるよね。」 一気に室度が氷点下になった、 とある日の理事長室での会話。 【lost act,10】 あの日。 会長に僕の正体が日から、 僕の生活は一変した。 何故かって? カツラと眼鏡を外したから。 翔伊曰く、「バレたなら隠す必要ないだろ?」ってことらしい。 あぁ、でもきっとまた何かを企んでる。 あの時の笑い顔はそうに違いないんだ! でも、ま、気にしてても始まらないし、 鬱陶しかった眼鏡とカツラとおさらばして、 僕は学校に登校した。 お陰で朝から注目の的だ。 見たことのない生徒がいて、 しかも銀髪で、 更にそれがあのダサヤン君こと佐渡春日なのだから仕方がない。 「にしても、うざいな。」 「仕方ないよ、春日。」 「そうだよ、そんだけ変われば注目もされるって。」 苦笑い気味に、先程までの自分の脳内と同じことを言う比呂と秋一。 唇をへの字に曲げる僕。 それに頷く真昼先輩と会長を初めとした生徒会の面々…ん? 「ちょっと待った!真昼先輩は(もう)いいとして、何でアンタらまで!?」 「あぁ?別にいいじゃねぇか。減るもんじゃなし。」 いいや減る! 僕の平凡な学生ライフが、確実に。 声に出さずに主張しても無意味なのは分かっているけれど。 それでも思わずにいられない時だってあるよ。 「あのね、オレさマジでシュンに会えて嬉しいんだ!」 かなり屈託のない笑みで僕に話しかけてきたのは古谷崎先輩。 雰囲気はうちの艶と似てるけど、 艶とはまた違った直球型。 艶の方が腹黒そう…自分の武器をしっかり分かっちゃってるからさ。 「そりゃどうも。」 適当に気のない返事を返して次の授業の準備をする僕。 それでも古谷崎先輩は懲りずに僕に話し掛ける。 「だからさ、出来るだけ一緒にいたくてさ…抑えるようにはするけど、 たまに遊びに来てい?」 こてん。 そんな効果音が付きそうなほど相和しく小首を傾げた古谷崎先輩。 前言撤回。 このお人も十二分にご自分の武器をご存知でした。 両脇で秋一と真昼先輩が砂を吐いている。 同族嫌悪しているらしい。 しかし、残念ながら僕はこういう系統のおねだりは艶で慣れっこ。 全く効きません…と、いう訳で。 「却下。」 「えぇ〜〜っどうしても??」 「はい。僕は平和に暮らしたいので。」 「夜の日常はとても平和に見えないけどね?」 すかさず、野々宮先輩が王子様スマイルで毒を吐く。 その横では会長が「違いねぇっ」、と大笑いする。 僕は負けじとニッコリ微笑んで、 「失礼。”学校では”とお付けするのを忘れてました。」 と、言ってやった。 その時、授業開始のチャイムが鳴った。 「ほら、早く教室に戻れよ。」 促がすように言えば、三人は更に笑みを濃くし、 「生徒会の特権」、と声をそろえたが、 「不真面目な人って嫌いだな、僕」 ど、ボソリと呟けば、 「また次の時間来るから!」 「かったりぃけど、行くか〜。」 「そうだね、たまには授業受けるのもいいかも。」 上から古谷崎先輩、会長、野々宮先輩。 三者三様に教室のドアへと向かって行った。 「ぉ気をつけて〜。」 「へ、ヒコ?」 「いぇーす。ヤホ、しゅーんv」 そう言って今まで一体何処にいたのか、 何処からともなく現れた卯月。 折角出て行こうとしていた三人も勢いよく振り返った。 「ヒコ!?今まで何処にいたのさ!?」 「ん〜?ずっといたよ〜?」 「てゆーか、どさくさに紛れて春日に抱きついてるんじゃねぇよ!」 「そんなことより〜、早く教室に戻った方がいいんじゃねぇのん?」 「君は戻らなくていいのかい?」 三人に一斉に攻撃されながらも、 卯月はゆる〜い笑みを浮かべて軽くあしらっていたが、 野々宮先輩の言葉に今まで見たこともないくらい嬉しそうな笑顔で言った。 「だって俺、教室ここだも〜ん♪」 「…マジかよ。」 長い沈黙のうち、会長が笑顔を引き攣らせ呟いた。 他の人も皆驚いたような顔をしている。 僕と比呂と秋一は、 (((あぁ…そういえばいたな、こんな人    授業に出てるの見たことないけど。))) などと思っていた。 本日、ヒコの一人勝ち。 こんな日常。