LOST

人生何が起こるか分からないものだ。 僕は今日、改めてそう思った。 「い、今更なのは分かってる。」 最近、僕に対する嫌がらせは激減した。 理由が分からず、首を捻っていたのだが、 「でも…あの…」 でも、今日少し納得した。 「好きになちゃったんだっ!!」 白いハートのシールを張られた封筒を僕に差し出しているのは、 「多岐、先輩?」 あぁ…眩暈がする。 【lost act,8】 この痛いほどの緯線を、 誰かどうにかしてください。 「ちょっと、どういうこと!?春日っ。」 「どう、とは?」 秋一の言いたい事は分かってる。 僕だってよく分かってない。 と、いうのも。 「何で、生徒会とその他ファンクラブの会長である多岐先輩がここにいるの!?」 「別にボクがいても君には関係ないだろ?」 「なっ…関係あるもん!!」 僕が返答する前に多岐…じゃなかった真昼先輩がフン、と鼻で笑いながら言った。 秋一は顔を紅くしながらムキになり、言い返す。 その横で、比呂がオロオロとしていた。 次に、真昼先輩は秋一の「関係あるもん」発言に突っかかる。 「関係あるって…君と春日の関係って何?コイビト?」 「ち、がうケドっ、親友だ!!」 「ははっ、ただの意気地なしか。」 「なっ!?」 「いい加減にしろ。」 瞬間、教室が沈黙に包まれた。 その原因は僕。 ただでさえ煩い視線。 周りで騒ぐ二人。 僕は静かに暮らしたいのにもう我慢の限界だ。 眼鏡で僕の目がかなり怒気をはらんでいたのは見えなかっただろうが、 秋一と真昼先輩の動きがピタリと止まった。 普段はのんびりとした僕の声音が、 ありえないぐらい低くなっているのに気付いたのだろう。 ここ最近、僕にとってあまりいいことがなかったから、 少しキレやすくなっていたんだと思う。 だって、ねぇ? 生徒会の連中は僕に何か感づいてるみたいだし、 風神の集会は全然出来ないし、 生徒会長にはキス(それも濃厚なヤツ)されるし、 もう、ホントついてないんだもん。 挙句の果てに先輩には告られて、 秋一はそれが気に入らないらしく怒り出す始末。 去年までの僕の平和はなんだったのだろう。 「比呂、行こう。」 「え!?…あ、うん。」 突然僕に声を掛けられて比呂は驚いていたけれど、 何となく嬉しそうな顔をしながら頷いてくれた。 比呂ってそういうところが可愛いよね。 癒し系だ。 「ちょ、春日!?何で比呂だけ…」 「煩い。もう知らない。」 単語でそう残すと、僕は急かすように比呂の袖を引っ張った。 教室を出てすぐ、また秋一と真昼先輩の言い合いが聞こえてきたけれど、 僕は完全無視を通してその場がら急ぎ足で立ち去った。 「良かったのか?あのままにしてきて。」 屋上についてからすぐ、比呂がそうきりだしてきた。 「何?じゃぁ、比呂だけで戻る?」 「いや、遠慮しておくよ。」 僕が唇を尖らせながらそう言うと、 比呂は降参するみたいに両手を上げて苦笑した。 フェンスに二人並んで寄り掛かり、 チャイムが鳴っても気にする事無く二人で話し続けた。 「そういえば、多岐先輩といつの間に仲良くなったの?」 「仲良くなったっていうか、告られた。」 「はぁ??」 ちょうどいい機会なので、 僕は真昼先輩とのやり取りを比呂に話した。 比呂は、体育倉庫での事を何で言ってくれなかったのかと少し悲しそうにしていたが、 巻き込みたくなかったという僕の意思表示を聞いて、 「それは、俺たちのことを好きだからと思ってくれてるってことでいいのか?」 と、聞いてきたので「勿論だ」と答えると、 少し複雑そうにしながらも「わかった」と笑ってくれた。 ん、和む。 「で、多岐先輩は何で告って来たんだ?」 「よく分かんないけど、”好きになっちゃったんだ”って言ってた。」 「…で、O.Kしたのか??」 「や、断ったんだけど泣かれて…」 「で?」 「じゃあ、トモダチってことで取り敢えずは納得してくれたみたい。」 「ふーん…。」 その後、比呂はずっと黙りこくってしまって、 少し居心地の悪い空気が流れた。 ちらりと、比呂の様子を盗み見ると、 何やら真剣な顔をしていた。 そんなに悩むような事言ったかな?僕。 そして、比呂が言った。 「春日はさぁー…」 「あ?」 「誰か好きな奴いんの?」 「………ぇ?」 タイミングよく風が啼く。 揺れる前髪の合間から見えた比呂の目は、 今まで見たこともないくらいに真剣で、 僕は、そこから目を離すことが出来なかった…。 (好きな人………。) 僕は頭の中で何度もその言葉を繰り返す。 ドクリ、と心臓が熱く唸る。 ――――――――……好きだよ、シュン 狂おしいほど、愛してる……――――――― 目の前が紅く染まった。