LOST

声が聞こえない。 ただ、月だけが大きく輝いて、 僕を呼んでいる。 あの時、僕は何かを失った… 【lost act,7】 「……」 「……」 「…ぁの、」 「何だ。」 いや、それ明らかに僕の台詞ですから。 僕は多少の苛付きを感じながら、 目の前の人間を凝視した。 「生徒会長」 「だから、何だ。」 「じゃぁ、言いますが…何故僕はここに連れて来られたのでしょうか??」 ここ=生徒会室。 僕は生徒会室の中で何故か敵対チームの総長と向かい合ってお茶してます。 何でやねん。 「…あ〜…気分?」 「お邪魔しまし「聞きたい事があるだけだ。」 それなら初めからそう言えばいいのに。 僕は呆れた様な視線を向けた。 会長は一人で何かを呟いていたが、 やがて決心したのか僕を見据えた。 「お前…シュンって知ってるか?」 「…その人がどうかしました?」 破裂しそうなくらい心臓が跳ね上がるのが分かった。 それでも、何とかそんな僕の心情を悟られまいと平静を装って返答した。 「そいつは、風神って言う族の総長なんだが…」 「生徒会の皆さんは雷神でしたっけ?」 「知ってるのか?」 これには答えずに曖昧な笑みを零しただけにした。 そんな僕に会長は不思議そうにしていたが、 一つ咳払いをして本題を切り出した。 「知っているなら話は早い。雷神と風神は敵対している。」 「はぁ。」 「だが、ここ一年は風神の集まりがあまり無くてな。」 「いいことじゃないですか。」 確かに、風神の集会はここ一年めっきり量が減っている。 何故かって? 僕がここに拘束(?)されてるからだよ! 叔父さんに「出るのは構わないけど、程ほどにねv」って! 胡散臭い笑顔で言われてるからな! 学園に入る前、週に4、5回あった集会も今じゃ週1だよ! くっそ、僕の癒しの一時が…。 こんな風に僕は悶え苦しんでいる訳だけれど、 雷神にとってはいいことじゃないのか? ライバルチームがいないんだからやりたい放題じゃん? そして、何故僕はここにいるのょ? 「その理由が、どうも風神の頭であるシュンがどこかの学校の寮に入ってしまっているかららしいんだ。」 「……。」 「お前、…何か知らないか?」 何これ。 僕疑われますのこと? …ヤバくね? 気まずい沈黙が流れる。 僕の心臓はドク、ドクと激しく脈を打ち、 体外にまで聞こえてしまっているのではないかと思うほどだった。 早く逃げ去りたい気持ちはあったが、 それをしてしまっては認めることになってしまう。 焦る心とは裏腹に脳は冷静に判断を下していた。 「…っくが…」 「あ?」 「僕が…知る訳無いじゃないですか。」 鋭く僕を見据える会長の…否、ギンの瞳。 それに吸い込まれそうになりながら、僕は何とか言葉を紡ぎだした。 「話とやらがそれだけなら僕は失礼します。」 言って、席を立つ僕。 ギンは動かず、視線だけが僕を追っているのが分かった。 眼鏡とカツラがあってよかった。 や、堂々と正体を見せていたならここまで焦ったりはしないんだけど。 ドアが近くなっても、ギンは動く気配が無かったので、 僕は少しだけ… ほんの少しだけ、警戒を解いた。 それがいけなかった。 「…っぇ、んむ!?」 ギンは、僕の警戒心が薄れる一瞬を狙っていたらしい。 気が付いたときには僕の背後にはギンがいて、 唇は塞がれていた…ギンのそれで。 「んん……っふぁ…」 口を閉じる隙すらもらえなかった僕は、 ギンの舌を受け入れ、蹂躙されていた。 突然の事で息の仕方を忘れてしまっていた僕は、 キスの合間に少しの酸素を何とか得ようとする。 その度に濡れた音と僕の掠れた声がやけに耳につき、 いいように扱われている自分が憎らしくて、 思わず僕は ギンの舌に噛み付いた。 「…って」 「はぁ、…はっ、く…ザマミロ。」 かなり思い切りかんだから、ギンは相当痛かったと思う。 でも、僕は悪くない。 むしろ、そんな報復じゃ足りなくて、 ついでに悪態も吐いてみた。 ギンは眉間に皺を寄せながらも楽しそうに笑う。 そして、言った。 「沢木達じゃつまんなかったろ?今度は俺が相手してやるよ。」 「何の事か分かりませんね。」 「そんなはずはねぇだろ。俺が口止めしたんだから。」 「……。」 そういうことか。 沢木先輩たちには男のプライドもクソも無かったらしいな。 よりにもよって生徒会で吐いたのか…使えねぇ。 「じゃぁ、今のは口止めご協力感謝料と言うことで。」 「はは、なら次はもっとでかい貸しを作らせてやるよ。そん時はこの続きをベッドでなんてどうだ?」 「心から遠慮させていただきますよ。というか、趣味悪かったんですね、会長。」 「あ?立派な趣味だろうが。」 「何処が。こんなダサ男にキスをしておいてよく言う。」 「いいんだよ、眼鏡の下は綺麗な顔って相場は決まってんだから。」 や、んな訳無いから。 自信満々に言い切った会長に、哀れみの目を向けながら、 僕は今度こそドアに手を掛ける。 「あ、そうそう忘れモンだ。」 「はい?ちょっ…何して、痛っ」 そんなものがあっただろうかと振り返れば、 今度は首筋に噛み付かれた。 軽く鬱血しただろうそこを名残惜しげに舐められ、 背筋を何かが走ったが、 何とか理性で体を押さえつけ眉を顰めるだけに留めた。 「次までの予約な。それまで誰にも触られるんじゃねぇぞ?」 「こんな僕にこんな事をするのはアンタぐらいだよ!!この変態バ会長!!」 そう言い放ち、会長の左頬に綺麗にビンタをして、 僕は生徒会室から走り去った。 「春日〜…」 「……」 「おーぃ?」 「……」 僕はその後、理事長室に逃げ込み、 翔伊に抱き付いていた。 「春日〜養父さんは疲れたぞ〜?」 「やぁ…」 「……」 (理性保つの疲れたんだって…翔槻、お前の息子貰っていいか??) 本日の春日フェロモンの犠牲者は 天国の弟にそっと呟いたと言う。