LOST

「嘘吐き…」 ぅん、ごめんね。 僕は君に捕らえられているのに、 君の顔を思い出すことが出来ないんだ。 「嘘吐き…って、言ったのに…」 聞こえないよ…。 もっと大きな声で言ってよ。 ねぇ、君は今どんな顔をしているの? 【lost act,6】 その日、朝から学校は騒がしかった。 「なぁ、学校新聞読んだか?」 「あ、見た見た!柔道部の沢木先輩が誰かに負けて体育館倉庫で伸びてたんだろ?」 「違ぇよ!伸びてたんじゃなくて、縄跳びで縛られて動けなかったんだよ。」 「誰だろうな…沢木先輩に勝つなんて。」 「他にも運動部のエースが転がってたらしいぜ?」 僕は通りすがら、そんな生徒たちの話し声を聞きながら、 唇を歪めた。 どうやらあの逆上した先輩(沢木と言うらしい)は、 僕のことを話していないらしい。 当然と言えば当然だ。 今まででかい顔をしていたのに、 僕みたいなダサ男に簡単に負けたなんて言える訳がない。 騒ぎは生徒会の耳に入っても、 僕の正体はばれないし、 僕は存分に暴れられてすっきりしたし、万々歳だ。 「凄いな、沢木先輩柔道部の主将なのに。」 僕の横で僕と同じように噂を聞きながら、 秋一が感心したように言う。 僕も笑いながら「そうだね」と賛同してみる。 「案外近くにいたりしてな!」 冗談交じりの比呂の言葉に一瞬どきりとしながら、 秋一とともにまさか、と言っておいた。 比呂は時々核心を突いたようなことを言うから油断出来ない。 「あ、次の時間小テストじゃね!?」 「ぅん、そうだよ。」 「マジで!?僕何もやってないよ!!」 比呂と秋一は眉間に皺を寄せてあたふたし出した。 二人とも頭いいから大丈夫だと思うのに…。 でも、次は英語の柳本先生だから僕も気分が沈んでしまった。 サドだからね、柳本先生。 そう簡単には点を取らせてくれないだろうけど…ま、いっか。 秋一のお陰で昨日の話は途切れたし。 昨日…逆上した先輩を伸して、 他の先輩方も軽く気絶させて僕は近くに落ちていた縄跳びで 古典的な犯人のように先輩方を柱に括り付けた。 万が一起きて来られたら面倒だからね。 僕は用心深いの。 そして、未だ唖然としている多岐先輩の方に足を踏み出した。 「…君…随分容姿とギャップがあるんだね。」 「はぁ、そうですか?それは固定概念というものでは?」 「それも、そうかもね…。」 一歩一歩近付いてくる僕に先輩はじりじりと後退りをする。 形勢逆転。 先輩の脳は今、 驚きと悔しさでいっぱいだろうと思う。 現にそのプライドの高さ故、ダサい僕から逃げる事すら出来ない。 だって、格好悪いもん。 「逃げないんですか?」 「…っな、んで僕が!?」 ほらね? 「君こそ…僕をどうする気?」 「別に、どうも。ただ…」 「?」 「そこに何時までもへばり付いていられると、僕出られないんで避けて貰えます?」 もう後がなくなってしまっている先輩の背中にあるのはここからの出口。 つまり、体育館倉庫のドア。 僕は早くこんなところから出たかったので、 多岐先輩を冷ややかに見詰ながらそう言った。 多岐先輩は絶対何かされると思っていたのか、顔を真っ赤にして横に飛びのいた。 「…どうも。」 僕がアンタなんかに触るわけ無いのにね。 心の中で舌を出しつつ、 表面上ではにっこり微笑みかけて僕はそこから立ち去った。 その後、多岐先輩がどうしたかは知らないが、 他の戦闘員達は放置ingplayされたらしい。 お気の毒に。(棒読み) 「春日?大丈夫か?」 「え?」 気が付くと、比呂が心配気に僕の顔を覗き込んできた。 かなり近いよ、比呂。 そんな比呂に大丈夫って言おうとしたら、 比呂の襟首を掴んで秋一が僕から引き離して閉まったのでタイミングを逃してしまった。 「…比呂、抜け駆けは許さないよ?」 「ぇ?…っ違!?」 「どうだか…。」 コソコソと何かやり取りをしている二人を微笑ましく見守りつつ、 チャイムが鳴ったので二人を促がして席に着いた。 がらりとドアが開いて柳本先生が入ってくる。 あぁ、そういえば小テストだっけ? めんどくさい。 「そういえば比呂と秋一って付き合ってるの?」 「「……………は……………?」」 わぉ、ぴったり。 地獄の柳本先生の授業が終わり、 誰もがぐったりしている中、 突然そう切り出した僕に二人は端正な顔を歪めて否定し始めた。 「違う!断じて違うよ!!春日っ」 「そ、そうだよ!ンな訳無いって!一体誰がそんなこと…」 「え?一年の頃から皆噂してたけど?」 きょとん、として聞くとまたもや声を揃えて、 「「違うから!!!」」 その必死な形相にたじろぎつつ頷くと、二人は安堵の表情を浮かべた。 その場にほんわりとした空気が流れる。 けれど、いるよね、空気を読めないヤツって。 和やかムードに浸っていた僕たちの前に、 そいつは突然やってきた。 「佐渡春日。」 「…生徒、会長?」 ……ギン…… 僕は一気に血が下がるのを感じながらそいつを凝視する。 比呂と秋一も不思議そうに僕と生徒会長の顔を交互に見ている。 生徒会長にそんな微妙な視線は効かないらしく、 「佐渡春日、面を貸せ」 多くの生徒の前で呼び出しをくらいました。 「…はぁ。」 僕はそんな間の抜けた返事を返す事しか出来なかった。(合掌)