LOST

独りにはなりたくない 余計なコトを考えてしまうから。 でも、皆が好きな僕は違うから 皆好きな僕は強くなくちゃいけないから だから、言わない。 だって、怖いから。 【lost act ,4】 「……。」 靴箱を開けて、僕は固まっていた。 そして、必死に笑いを堪えている。 何故か。 そこにあまりにも古典的なものがあったから。 「春日?どうかし…何これ!?」 既に靴を履き終えている秋一が僕の靴箱の中を見て声を上げる。 続いて比呂も「ぅわっ、ヒド」、と言った。 僕の靴箱は見るも無残な状態になっていた。 靴箱の内側は、刃物…おそらくカッター…でメタメタに切り付けられ、 幾つも「死ね」やら「ウザイ」などと書かれていた。 上履きの中には大量の画鋲が敷き詰められており、 とても履けるような状況ではない。 そして極めつけは、黒い封筒。 あからさま過ぎる。 「何なんだよ、コレ!ここ男子校なのに何でこんな女みたいなコト起こってんの!?」 「ですよねぇ、嵌めるなら二つ三つにして確実に踏ませないと意味無いですよねぇ。」 「え!?論点違くない!?」 「そうですか?僕はまだこういう人たちは良心的な方々だと思いますよ?」 何て言ってるけど、んな訳ねぇだろ。 十分陰湿。 低レベル。 コレで、この手紙が呼び出しとかだったらマジで冷める。 でも、こんな事しか出来ない奴らの所為で比呂たちと友達が出来なくなるのは嫌だ。 そうなるくらいだったら、こんなものなんて事無い。 「…ゴメン。」 「秋一?」 「だってコレ、俺か比呂のファンだろ?」 本当に申し訳なさそうに言う秋一。 比呂も似た顔して僕を見てる。 うん、さすがに分かるよね。 「あぁ、僕が嫌われてるだけでしょう。」 「そんな事…っ!?」 「僕は二人がいてくれるならそれだけで良いです。」 「春日…」 今にも泣き出しそうな秋一。 比呂は優しく微笑んで、僕の頭を撫でる。 「ゴメンな、気を遣わせて。」 「遣ってないよ。」 「ん、でも守らせて。」 「僕も守る!!」 「ありがとう。」 『 放課後、一人デ体育館倉庫ニ来イ 』 黒い封筒の中身はそう書かれた手紙が一枚、入っているだけだった。 ここまでありがちだと、この差出人の顔を拝見してみたくなる。 比呂と秋一には手紙は読む前に廃棄したと嘘吐いた。 だって僕は負けないけれど、 僕のそういう姿を二人には見せたくない。 「春日、昼飯行こ?」 「はい。」 この関係を壊したくないから。 ざわつく食堂。 いつも騒がしいけれど、今日は何かいつも以上で。 「何かあったのかな?」 「や、生徒会だろ。」 あぁ、納得。 さすが比呂。 それならこの女のいるかのような空気も頷ける。 ホモがホモ活動しているからだ。 全く気色悪い事この上ない。 別に恋愛に対して言ってるんじゃないよ? それは人それぞれ。 周囲の口出していい事じゃないし。 こういう環境だから。 ただ僕には、媚売ってまでその人に気に入られたいっていう感情が分からない。 そんな温い関係でいいなんてね。 考えてもみなよ、同姓だよ? そんな簡単に足開ける? プライドもへったくれも無いじゃないか。 突っ込むならまだしも…。 何でネコ側で言っているかだけど、生徒会が皆タチだから。 つまり、寄って行くのはネコのカワイコちゃん。 信じらんねぇ。 「ま、僕には関係ない話だね。」 「「俺(僕)も。」」 満場一致したところで僕たちはお昼を取るべくカウンターへ向かう。 相変わらずの秋一の食べる量に比呂と苦笑いして、 席について他愛の無い話をしながら食べていた。 「…何かざわつき多くなってない?」 「てか、近付いて来てる?」 「あ、俺すっごくヤな予感してきた。」 上から僕、秋一、比呂と顔を引き攣らせながら言った。 嫌な予感って良く当たるよね。 「あ、いた。」 「2−Aの夫婦プラスα。」 「えっと、加宮比呂君と弘瀬秋一君で…君が佐渡春日君?」 「…はぁ、一応。」 ギンにコタにミヤが学校で僕に話しかけてきたのはコレが初めてだ。 一瞬、正体がばれたのかと思ったけれど、 比呂たちまで呼ばれたって事は別件だ。 そう考えて僕は普通に返答した。 「近くで見てもやっぱダサいのな、お前。」 余計なお世話だ。 誰の所為でこんな格好をしていると思ってやがる。 夜の時と全く変化の無いギンの…いや、銀会長の態度に少しムッとして眉を顰める。 それに気付いたらしい野々宮副会長が銀会長を叱咤する。 「誉、ダサヤ…佐渡君に失礼だろう?」 てめぇが一番失礼なんだよ。 今”ダサヤン君”って言おうとしただろ! 僕の知らないところでいつの間にかついていたあだ名。 一応昼間話すの初めてなんだからさ、 生徒会らしくしろよ! なんだ、このなよなよ具合は。 この調子じゃああの噂も本当だな。 「ヤリマン集団が……」 そう思ったら本当に小さい声でだけど声に出してしまった。 隣に座っていた秋一には聞こえたんだろう。 思いっきり噴出した。 で、今必死に笑いを堪えている。 「俺らに何か用っスか?会長方。」 比呂も早々に終わらせたいのか、 笑顔ではあるものの、何処か冷たい。 「あぁ、ごめんね。靴箱のことなんだ。」 「「「……。」」」 「一応、学校の備品の管理もオレたちの仕事だからさ。」 「明日には直しておくよう手配したからよ。」 ちゃんと仕事もしていたことに驚きつつ、 古谷崎先輩のしゃべりっぷリを聞いて、 本当に夜のままだと思う。 全てが謎の”風神”とは違って、”雷神”はプライベートでも一緒らしい。 それに少し羨ましさを感じながら、僕は小さくお礼を言った。 すると、本当にそれだけが用事だったらしい生徒会の面々は食堂を後にした。 「ビックリした。生徒会が自ら来るなんてね。」 「あぁ…春日、面識でもあったのか…て、春日?」 不思議そうに比呂が僕の名前を呼ぶ。 「…別に。」 結局僕はいつだって中途半端なんだ。