LOST

堕ちて行く… ゆっくりと。 まるで、スローモーションのように。 体が、 意識が、 ……堕ちて行く。 【lost act,3】 誰だって、お楽しみを邪魔されちゃ少なからず怒りは覚えると思う。 何故僕がこんな事を言ったか。 今がまさにその状況だからだよ! 「何でまたテメェらがいんだよっ、雷神!!」 噛み付くように言い放ち、 僕が指をさした先にはしたり顔の”雷神”幹部の皆様が勢ぞろいしていらっしゃる。 「あぁ?俺たちが何処で集まろうが勝手だろ?シュン」 そう言って形のいい唇で弧を描いて笑ったのは”雷神”の総長…”ギン”こと銀 誉(シロガネ ホマレ)。 学校でも族内でも圧倒的カリスマ性を発揮しまくるコイツは、俺様気質。 しかもしっかり実力まであるもんだから厄介な事この上ない。 「あぁ、確かに勝手だ。けど、毎度毎度現れられたら勝手にしろなんて言ってられねぇの!」 「一緒に溜まりゃあイイじゃん。」 「よくねぇよ。」 何が悲しくて敵対チームと馴れ合わなければならないのか。 冗談じゃない。 僕の仲間も同じ気持ちらしく、各々が心底嫌そうに顔を歪めている。 「なぁんで俺らが”雷神”なんかと仲良くしなきゃなんねぇのょ?」 僕の横で、綺麗な赤髪を掻き揚げながら爛(ラン)が苦々しく言った。 「別にあなたとは仲良くしなくてもいいんですけどね?」 柔らかい物言いでそう言ったのは”雷神”の冷酷女神…”ミヤ”こと野々宮 礫(ノノミヤ レキ)。 列記とした男だよ? でも、綺麗な顔して、やることが冷酷って言うんでそう呼ばれてる。 今も、微笑んで入るけれど何処が冷たい。 「何が言いたいのか分からないな。」 それに物怖じする事無くにっこり笑いながら、蓮(レン)はしれっと言う。 腹黒さならコイツもミヤに劣りはしないと思う。 普段は兄貴気質なんだけどな。 今も後ろから僕を抱き込み、僕の頭を撫でている。 「シラを切るなら最後まで切り通して欲しいものですね……この性悪が。」 「これが通常なんだから仕方ないだろう?……この似非女神が。」 毎回思うけど、僕を挟んでこういう黒い戦いはやめてもらいたい。 何て言うか…綺麗な顔をした二人のこんな醜い戦いを僕は見たくない。 「蓮〜、そろそろやめないとシュンにどん引きされるよ?」 「ミヤも。そんな黒い笑顔見せてたらシュンに嫌われるよ?」 「「それは嫌。」」 蓮は艶(エン)の言葉を聞いてきつく僕を抱きしめた。 ふわふわの金髪が首筋に当たってかなりくすぐったい。 今度は僕が蓮の頭を撫でて「大丈夫、嫌いになってないから。」と言ってやった。 「いいな〜いいな〜っ!オレも撫ぜて欲しい!!」 撫ぜてもらえばいいじゃないか、お前の総長に。 向かいの方で駄々っ子のように喚いている”雷神”マスコット…”コタ”こと古谷崎 廉太郎(コタニザキ レンタロウ)。 ”風神”の次に情報通。 おそらく、毎度毎度僕たちの集会所を突き止めているのはコイツなんだと思う。 顔はどっちかって言うと可愛い系。 これで僕の一つ上なんだから驚きだ。 「バッカじゃないの?シュンは僕たちしか撫でないよ。つーか、シュンが汚れるからやらせない。」 小馬鹿にしたように艶がコタを一蹴する。 艶はまだ中学生なのに、コタとそこまで年の差を感じないのは身長の所為だろう。 「というより、君たちは一体何をしに来ているんだ?」 俺たちの中で一番年上の昏(コン)が、 心持ち他のメンバーよりも穏やかに言った。 「どーでもいーじゃん?そんな事♪俺たちはぁ、シュンに会えればそれでいいんだしぃ?」 気だるそうに語尾を延ばしつつ、あまり嬉しくない事を言ってくれたのは、 ナマケモノ…”ヒコ”こと卯月 彦(ウヅキ ヒコ)。 コイツが喧嘩に参加してるのを見たのは一回だけだ。 僕が相手をした。 二度目に”雷神”と遣り合ったときは、ただ楽しそうに見ていた。 まるで、子供のような無邪気さで。 「珍しいね。アンタも来てたんだ?」 「ゥン♪シュンに会いたくなったからv」 だから、嬉しくない。 何故僕の周りには僕の意見を聞いてくれる人物がいないのか…。 僕を好きだの惚れただの腫れただの…そんなことを口走りながら僕の人権を皆無視している。 無視どころか勝手に話を進めているからもう言葉も出ない、呆れ過ぎて。 そんなんで信用できるはずもない。 まぁ、からかってるだけだろうから気にもならないけれど。 「僕は仲間に会えればそれでいい。」 「お前が良くても俺たちは嫌だ。仲間になんかいつでもいくらでも会えるだろう?」 だからといってお前達に絡まれなきゃいけないことがあって溜まるか。 図々しさにも程がある。 第一今は仲間に早々会えないんだ。 ”雷神”の所為で。 学校でも外でもこいつらに邪魔されるなんて冗談じゃない。 「それとこれは関係ないな。僕は別に会いたくないし。」 「冷たいな。」 「優しくしなくちゃ行けない理由も無い。」 軽く頭痛を覚え額に手を当て大袈裟に溜息を吐いてやった。 すると、ギンは笑って「ホント、つれない」、と言った。 「この俺が態々逢いに来ているのに。」 「嬉しくない、頼んでない。」 「愛してんのに。」 「信じない。」 最後だけ一層冷たく言ってやる。 このタラシ会長。 どうせ誰にでも言っているんだろう。 学校では本当にただの遊び人としか思えないような話しか聞かない。 来るもの拒まず、去るもの追わず、セフレの数は数知れず…、 彼の部屋からは毎晩情事の声が響いているらしい。 考えただけで吐き気ものだ。 ついでだから軽蔑の眼差しも送ってやろう。 さぁ、喜べ。 「そんな目をしても可愛いだけだぞ?」 「…場所変えよう、ここに居たら目と耳と脳が腐る。」 僕はギンを鼻で笑うと、そのまま”雷神”に背を向け、”風神”に言う。 皆も同感だったらしく、むしろ、待ってましたと言わんばかりにバイクに跨る。 「待てよ。」 「……。」 「逃がすと思うか?」 「逃げるも何も、僕たちは自由だ。」 向こうも、いつもの展開なので慣れたものだ。 どうせ僕たちを捕まえる事は出来ない。 だって、僕らは”風”だから。 己が気の向くままに走り続ける、風のように。 「テメェらっ、行くぜ!付いて来いよっ!!」 辿り着く場所が一緒なら。 僕が合図すると、”風神”は答えるかのように雄叫びを上げる。 「ギン、どうするの?」 「決まってる。…捕まえろ。」 エンジン音でよく聞こえないながらも、ギンがそう言ったのは分かった。 瞬間、”雷神”が動き出す。 「捕まるかよ。」 「シュン?」 ボソリと呟くと、爛に聞こえていたらしく不思議そうに僕を見ていた。 僕は爛に微笑み、バイクを発進させた。