LOST

ただ、感じていた。 ただ、思っていた。 ただ、楽しかった。 ただ… 走っていた…がむしゃらに。 そうしないと、崩れてしまいそうだったから。 【lost act,2】 二年生になって思ったことは、 ”雷神”の幹部どもが学園の生徒の人気の的だったってこと。 一年生のときもそうだったのかもしれないけれど、 あの時は一人でいることが多かったから気付かなかったかもしれない。 今は……視線が痛い。 「二人って、やっぱ人気者だったんだな。」 ざわつく食堂で、げんなりしながら俺は言った。 だって、さっきから色んなやつらの視線が、ね?こう… ちくちくちくちくちくちくちくちく…(以下エンドレス)何だもの。 さすがの俺もドン引き。 二人も苦笑しながら「きっと慣れるよ」と言った。 残念ながら慣れたくはない。 「やっぱ、他の生徒からすると面白くないみたいだね。」 比呂と秋一の傍に僕がいることが。 まぁ、確かにそうかもしれない。 少なくともクラスの中では二人が一番美形だし、 比呂はバスケ部のエースでもあるからね。 さわやか少年街道まっしぐら。 似合ってるからまたすごい。 秋一は運動は好きだけど、体力はあまりないらしい。 でも僕は、秋一はそのままでいいと思うよ…ぅん。 「春日〜、お昼そんなんで本当に足りるの?」 「ぅん?あぁ…足りるよ。」 僕の目の前に置かれたサラダとスープとコーヒーをを見て、 秋一は口をあんぐりさせながら言った。 本当なら僕は朝ご飯以外放置主義な人間だから、 別なきゃないでいい。 それよりも…。 「逆に聞くけど、秋一はその体のどこにそんな量が入るの??」 「いいの!僕は育ち盛りなの!!」 「その割に牛乳嫌いなんだよな、秋一は。」 「うるさいよ!比呂。」 今まで黙っていた比呂が口を挟んだことにより、 秋一はこれでもかというくらい大きく口を開け、えびピラフを頬張った。 それから、かにグラタンにジャガイモコロッケ、マカロニサラダ、卵スープ…。 とにかく見てるこっちが吐きそうになるくらいの量を平らげた。 人は見掛けによらないね。 「あ、春日、次数学だよな。分かんない所があるんだ教えてくれるか?」 「いいけど、珍しいね、比呂。そんな難しい問題あった?」 「や、なんつーか、どうもまだ理解できてないらしくて。」 「以外〜比呂もそういうのあるんだね。」 「ばっか、当たり前だろ?人間なんだから。」 照れくさそうに言った比呂はなんだか可愛かったな。 食事を終えた僕たちは連れ立って食堂を跡にした。 途中、僕を転ばせるためにいくつも足が伸びてきたが、 二人にばれないようにすべて綺麗に避けてあげた。 見た目根暗な僕にそんなことが出来る訳がないと思っていたのか、 避けられた人たちは呆然としたり、悔しそうに唇を噛んでいた。 その姿があまりにも滑稽だったから、 僕は食堂から出る瞬間、こっそり振り返りニコリと嗤ってやった。 こういうのって、気分いいよね。 「あ、おい。あれって2−A の夫婦じゃね?」 「あ、本当だ。一緒にいるのは…ダサヤン君?」 「なんだそれ、見たまんまじゃねぇか。」 食堂を出て行く春日たちを見る二人のうち、 金髪の青年が高らかに笑う。 「一年のときからかなり有名だったよ、彼も。」 「別の意味で、だろ?」 「うん…でも。」 「でも?」 「何か引っかかるんだよね…ダサヤン君。」 静かな微笑を浮かべながら春日を見つめる青年の瞳は、 どこか楽しげに見えた。 「礫(レキ)、珍しいな。」 「うん、僕も驚いてる。」 こんなに他人に興味を示すなんて…”彼”以来だ。 「そんな君も…もう気になって仕方がないんじゃないの?誉(ホマレ)」 「…さぁな。」 「何々?何の話!?」 「ぅお!?廉太郎(レンタロウ)、いきなり飛びつくのやめろって。」 金髪の青年…誉は突如抱き付いてきた廉太郎に驚きつつ、 椅子から落ちないようにバランスを保つ。 廉太郎はけらけらと楽しそうに笑い、「ごめんね〜?」と言った。 「で、何の話?」 「何でもいいじゃねぇか。」 「ケチ!まぁ、いいや。…ね、そんなことより入ったよ。」 「「!?」」 先ほどまでの可愛らしさなど、 まるで微塵も感じさせない廉太郎の言葉。 それ空気に、何かを感じとった様に、二人の周りの空気の温度が低下した。 「…いつだ?」 「明後日。」 「礫…今すぐ伝達しろ。」 「了解。」 先ほどよりも暗い笑みを浮かばせながら、席を立つ三人を、 周囲の生徒たちはまるで聖人を見るかのごとく羨望の眼差しを向けている。 三人はこれといって気にした様子もなく、食堂を後にした。 「”雷神”…集合だ。」 次こそは”奴”を…。