片思い

始まりは当然の流れ 俺は高校に入学しただけ、 そこを、選んでしまっただけ。 【片思い】 歳は5歳離れの23歳。 見た目は中性的で、中身は物凄い男前。 喧嘩は強くて、口もうまい。 新任教師にして、不良系の生徒からも慕われる人気者。 人当たりがいいらしく、他の先生からもそんなに嫌われている訳ではないようだ。 槙原 耀司(マキハラ ヨウジ)、俺の担任にして俺の好きな人。 「はい、この問題解けそうで解けない人手を挙げてー。」 人の良さそうな面下げて、 槙原はそう言った。 今は授業中。 生徒達は槙原の冗談に笑いつつ、 素直に手を上げる。 一種のカリスマともいえるだろう、槙原は、 いつも羨望の眼差しを送られている。 「おーし、谷野(ヤノ)、手を挙げないってことは解けてるんだな?」 「は?」 「解いてみろ、谷野。」 谷野、とは俺のこと。 槙原観察に夢中だった俺は、授業なんか頭に入らない。 それでも、名前を呼ばれたことで、心臓がドクリと脈を打った。 こんな俺は、槙原中毒者だと思う。 取り敢えず、仕方がないので前に出てチョークを握る。 黒板には少しむずかしめの問題。 俺には簡単すぎるけれど。 「間違ってます?センセ。」 「んや、正解〜。」 少し悔しそうに槙原は言う。 悔しそうなその様子が、とても年上には見えなくて…。 また一つ俺の心臓が高鳴る。 「谷野は教え甲斐が無いな〜…先生泣いちゃう。」 「啼くの間違いじゃないですか?」 「いやぁあぁああっ何この子!? 優等生面引っさげてそんな下品なコト言っちゃぁダメでしょ!?」 「いやいや、その歳でそんな言葉を使ってる先生のほうがダメでしょ。」 「か〜…可愛くない。 俺が高校生のときはな〜、 そりゃぁもう可愛くて学校の備品どんなに壊しても怒られなかったんだぞ!?」 「どんな自慢だっ、それでも教師か!!」 俺と槙原の遣り取りに、 クラスメイトは”また始まった”と思いつつ、 それでも腹が捩れるほど笑っていた。 「もぅ、お前本当にムカつく!! 罰として今日の放課後は俺の助手をしてもらうから」 「何だ、それ。」 「所謂雑用係だよ、ざ・つ・よ・う・が・か・り☆ 嬉しいだろ?」 「んな訳あるか」 いや、コレはかなり嬉しいぞ。 つまり放課後、槙原と二人きりになれるということなのだ。 嬉しくない訳が無い。 そんな俺の心内など知る由も無い槙原は、 いたずらの成功した子供のように、 ふふん♪、と笑ってみせた。 先生、アンタ可愛すぎるよ。 あぁ、兎に角。 放課後俺の理性が持つことを祈るばかりだ。